地域産業の担い手不足が深刻化する中、企業と学校の間に横たわる“見えない壁”を取り払い、高校生の主体的な進路選択を支援しようとする取り組みを始めた大学生がいる。
3年生の森佑太さんが中心となって進める「キャリア教育共創プロジェクト」は、地方の企業と高校をつなぐ新たな教育モデルの構築を目指すものだ。
故郷を出てわかった故郷が抱える課題
富山県では製造業を中心に人材不足が続いている。人口約98万人の富山県内で、県内大学卒業者のうち地元企業へ就職するのは年間数百人程度にとどまり、若者の首都圏流出が課題となっている。一方で高校新卒者の県内就職率は約99.96%と高い水準にあるものの、早期離職率は4~6割に達しており、定着という面で大きな課題を抱えている。
こうした現状に問題意識を持ったのが森さんだ。富山県で10人以下の製造業を営む父の姿を間近に見てきた経験から、中小企業における採用難の現実を実感してきたという。また、富山県内の私立高校で学校魅力化コーディネーターとして活動する中で、高校・企業・生徒・保護者・行政の間に情報共有の不足があり、それぞれが分断された状態にあることを強く感じた。
高校生と保護者と企業をつなぐ橋渡し
森さんは叡啓大学での学びを通じて課題を構造的に分析し、本質的な問題を「企業社会と学校の分断」と定義。その解決策として「企業社会と学校のシームレス化」を掲げ、2025年に「キャリア教育共創プロジェクト」を立ち上げた。
その中核となるのが「キャリア教育共創プラットフォーム」である。高校生と企業の若手社員の関わる機会を増やすことで、高校生は働くことをより現実的に捉え、若手社員は自身のキャリアを見直す機会を得る。双方にとって学びの循環を生み出す仕組みだ。


プロジェクトの設計にはPMBOK第6版や叡啓大学独自のフレームワークを活用し、理論と実践を往復させながら構築された。企画段階では富山県内約30社を訪問し、業種を問わず企業の声を集めながら内容を磨き上げたという。
現在は、教育効果を客観的に検証するための定量調査も計画し、蓄積したデータをAIで整理・活用し、再現性のある教育モデルの確立を目指している。

事業化の過程では価格設定が大きな課題となった。原価ではなく「価値」に基づく価格設定が求められる中、森さんはまず理念に共感する企業とともに小さく事業を立ち上げ、実績を積み上げる戦略を選択した。
自分で問いを見つけ答えを選択する『学び』
大学での学びは、このプロジェクトの基盤となっている。プロジェクトマネジメントやデザイン思考といった理論を実践に結びつける中で、「学びと実践の往復こそが成長につながる」という実感を得たという。また、社会起業家精神を学ぶ授業で得た「超学際領域」「人間中心設計」「価値」という視点は、プロジェクトの思想そのものを形づくっている。
富山県には優れた技術や製品を持つ企業が多く存在する一方で、その価値が十分に社会へ伝わらず、成長の壁に直面するケースも少なくない。森さんは、単なる機能的価値ではなく「意味のある価値」を社会にどう届けるかが重要だと指摘する。その問題意識は、ミラノ工科大学への留学挑戦にもつながった。
本プロジェクトの最終的な目標は、高校生が自らの意思で進路を選択できる環境をつくることにある。その結果として、企業には人材育成と採用基盤の強化、学校にはキャリア教育の充実という効果が期待される。また、高校新卒採用のあり方そのものを見直し、地域全体で次世代への投資を考える機運を生み出すことも狙いだ。
森さんはプロジェクトを通じて、企画・営業・契約・運営といった一連のビジネスプロセスを実践的に経験した。「自分の適性を見極める大きな機会になった」と振り返る。
今後は一般社団法人Teena Light テーナライトの理事としてプロジェクトに継続的に関わるとともに、デザイン思考の学びを深め、将来的には父の会社で扱う破砕機を世界展開することも視野に入れている。地域産業の価値を世界へ発信しながら、人材育成の新たなモデルづくりに挑戦していく考えだ。

▼企業紹介
●一般社団法人Teena Light
所在地/富山県中新川郡立山町利田186-15
10代が社会を照らす。をモットーに掲げ、一人でも多くの10代が夢や未来に対して「ワクワク」できる環境の醸成に向けて教育活動に取り組んでいる。「オンラインなめりかわ塾」や「たてやま子ども未来塾」といった進学/学習支援事業を自治体・NPO・共創パートナーとの強固な連携のもとで展開。