
人間は誰しも、個人が多様な存在のまま尊重されなければならない。しかし、自らの持つ属性のために少数派として不平等な扱いや差別を受けて生きづらさを感じる人は少なくない。性的少数派であるLGBTQ+の人々もまた、ありのままに生きにくい社会で苦しんでいることは社会課題である。では、彼や彼女たちにとって必要なことは何だろう。
自身の体験をきっかけとしたピアサポートづくり
2022年、三谷さんは、公益財団法人広島県男女共同参画財団「エソール広島」のインターンシップに参加した。ジェンダーやダイバーシティなど幅広く扱う団体で、男女共同参画関連の活動において実習を経験する。「私自身、LGBTQ+当事者であり、以前は自分の性的指向を理由に不安や孤独を抱いていました。問題意識もあったので、そういったことに取り組んでいるエソール広島には関心を寄せていました」と三谷さん。実習をきっかけに職員の方と交流を深め、月に一度エソール広島で設けられる、何かをしたい若者のためのイベント枠を知り、プロジェクトの立ち上げへと動いていく。しかし背景にはやはり、自身の体験が大きく関わっている。「18歳の頃、初めてLGBTQ+のための集まりに参加し、不安や孤独が劇的に解消される感覚を体験しました。それもあってLGBTQ+当事者にとって居場所があることが非常に重要だと気づいたんです」。


居場所を求める若年層へスポットを当てる
プロジェクトのテーマはこうだ。「広島市には若年LGBTQ+を対象としたピアサポートの場がないことに着目し、LGBTQ+の若年層が自分らしくいられる場所を提供することによって、自分をもっと好きになってもらう」。そのために、「何をするでもなくただ集まれる場所、ただ話をするような場所が作れたらと思い企画、始めたのが『にじいろおしゃべり会』でした」。現在広島市には、LGBTQ+当事者向けの交流会、イベントがいくつか存在しますが、子どもの当事者(とその保護者)、30代後半以上の当事者向けが大半であり、若年層に向けた場は存在しない。

当事者がアクセスしやすい環境を整備
「にじいろおしゃべり会は、プロジェクトとして介入する以前の3回を数えると、全部で7回行っています。企画は私がほぼ一人で考え、それを基に瀬古素子准教授、エソール広島の職員さんにも加わってもらい、対象者の年齢設定、場所の選定、告知方法の検討など具体的に練っていきました。前期の3回で積んだ経験がプロトタイプとなり、2024年7月~10月に行った4回の会では、さらに細かく評価と改善を実施しています」。内容がセンシティブなだけに参加者のプライバシーと安全を守ることには細心の注意を払ったという。「当事者で集まるイベントには、冷やかしで参加する方が来ることもあると聞いたので、申し込み用紙への電話番号の記入を必須にすることで、冷やかしの参加率が下がるように工夫しました」。


「恋バナで盛り上がっている」それだけでも十分な効果
また、おしゃべりのテーマ決めやグループ分けなどについても、回を重ねるごとに細かく修正を加えた。「にじいろおしゃべり会を開催する時は、毎回アンケートを取って評価、改善を繰り返しました。例えば、ひとりでずっと話し続ける人がいれば、次回から主催者が介入する。グループメンバーを指定したため話したい人と話せない人がいれば、次回は席移動を自由にするなどの改善を行いました。私は主催者であり一人の参加者でもあったので、柔軟に対応できた点ではPDCAをうまく回せたと思います」。大学での学びも生かされている。プロジェクトを行うにあたり、目的に対して真っ先に解決策を考えがちだったが、課題解決演習(PBL)を学んだおかげでじっくり問題に目を向けられるようになった。「自身のセクシャリティの否定という課題は、他人と話すだけでは根本的に解決できないと思っていて、PBLで学んだ課題解決の手法を活用し、丁寧に本来の課題特定に時間をかけると、自分を隠さずにいられる場所が少ないことが一番の問題なんじゃないかと思いました。自分のセクシャリティを大好きになる必要はなく、もっと気軽に捉えられるようになる場所が大事なんです」と三谷さん。“おしゃべり会”は実現可能性をピックアップしたひとつの方法であって、そこで自分が楽しく生きている姿を見せるだけでも、誰かの気持ちの変容につながるのではと考えた。
“楽しい”を原動力に、感動の共有を続けたい
プロジェクトを終え、参加した人たちの感想は概ね好感触だった。「データを見ると、同年代の当事者同士が交流するだけで、その人が持つ悩みを一定以上解消することができたことがわかります」。またプロジェクトの成果として、おしゃべり会を誰でもどこでも同じように開催できるマニュアルを作成。実際ひとりの参加者から「自分も主催したい」と申し出があり、実際にマニュアルを活用して成功裏に主催し、活動を広げてもらうことができた。さらにプロジェクトに賛同し、企画段階からアドバイスを得ていた「一般社団法人ここいろhiroshima」との正式な連携が決定。三谷さんの活動が他の組織も動かし、広島全体をLGBTQ+当事者にとって住みやすい街にするため手を取り合ったのだ。「今後もにじいろおしゃべり会を開催していくにあたり、エソール広島と連携したことにより、場所の確保やイベントの情報発信がしやすくなったことは、会自体の持続性に影響します。私自身がそうだったように、ここに来れば何とかなる、楽しくいられて安心できる、そんな人たちが増えるよう、思いを共有できるイベント活動をこれからも続けていきたいと思っています」。
(2025年3月)
