
広島県の若者の転出超過4年連続全国1位という社会課題に対して、「広島に若者が残る」ことに固執するのではなく、「広島を出ても、つながりを感じられる場をつくる」視点で、課題解決に取り組むプロジェクト。
SNS全盛期を迎え、人や社会とのつながりが希薄化する時代に、同じ時間を共有し、声でつながりを生み出すラジオというツールに、可能性を見出す。
苦手を克服することから始めたラジオ活動
「ラジオは言葉のキャッチボールです。話すことで自分の考えが整理でき、他者と深くつながる特有なツールだと思います」。ラジオをそう解釈する川原さんは、大学に入ってペクチャーズというサークルを起ち上げ、ポッドキャストや学内放送などラジオ番組の制作に没頭した。「最初は人前で話すことが苦手だった自分を克服するために始めましたが、活動を続けるうちに音声メディアが持つ可能性に魅力を感じるようになりました」。ペクチャーズの活動のひとつに「オール広島学生ラジオ」という番組があるが、目的のひとつは広島県内にある大学同士で連携したラジオ番組の制作と、もうひとつは企業への取材やインタビューを通して、転出超過が全国最多の広島県の学生に素敵な働き場所の存在を発信することだった。ラジオをツールに様々な経験を得た川原さんは新たなビジョンを見出した。それは「広島に若者を残すことにこだわるのではなく、広島を出てもつながりを感じられる場所づくり」。そのために「シャレオでラジオ」プロジェクトを企画し、自身の活動の集大成と位置付けて取り組んでいる。
菅田 悠生 & 川原 壮太 – 【公式サイト】広島県公立大学法人 叡啓大学

交流と対話を生み出す街のスポットづくり
「シャレオでラジオ」は、学生が主体的に情報発信する場を提供し、学生と企業、地域が一堂に会し、交流・対話できる場づくりを行う。単なるラジオ制作にとどまらず、将来的には広島全体の活性化を目指している。また、ラジオブースをシャレオの空きテナントに設置することで、使われていない空間の有効活用と広島市中心街の活気を取り戻すことにも一役買っている。「広島都心会議が主催する『ピッチ&ブレスト!』という、紙屋町シャレオ西通りの活性化について考えるイベントに参加した際に、広島都心会議を運営する方とつながり、自身のラジオ活動について話したところ、シャレオ西通りにあるブースを使わせていただけることになりました。ブースの周囲にはオープンスペースも作り、様々な立場の人が集まることで社会にインパクトを与える期待もあり、その意味でシャレオは好地だったと思います」と川原さんは振り返る。

同じ時間を共有し、安心感のある体験を提供
2025年2月17日、キックオフとなる公開収録には学生と企業あわせて30名を超える参加者が集まった。川原さんの挨拶に始まり、この日は「交流」と「対話」の2つのテーマについて話し合ってもらった。「参加者の皆さんと交流、対話を行う前に、どのような場所が居心地の良い場所か、価値観を共有するためにワークショップを行いました。班ごとに意見の書き出しとグループ化を行った後、まとめた考えを発表してもらいました。ここで出た意見を2回目の番組に反映し、学生と企業、地域が一堂に会し、交流・対話できる場づくりに活かします」。今後も月に一回の活動を通して多岐に渡るコンテンツを用意し、つながりを増やしていきながら、いずれは生放送の実現を目指している。
原動力は自身の実現したい気持ち
企画はどのようにまとめたのだろう。「まず自分がどんなことを実現したいかを考えたときに、ニュースで良く耳にしていた広島県の転出超過の問題が思い浮かびました。この問題については、3、4年も課題とされていながら改善できないことに対して、何かできることはないのかという気持ちがあったので、課題に設定しました。そして、その課題解決のために必要な要素を考え、「人々の繋がりづくり」「県外から転入してもらえる仕掛け作り」を挙げました。さらに、それらを達成するための手段を考え、自身のラジオ活動を手段とできるのではないかと考えていきました」。これは大学の授業「課題解決演習(PBL)」で学んだニーズステートメントの手法に近い。また、インターンでお世話になった株式会社横山セイミツの社長に自身のラジオ活動のことを話した際に関心を持ってもらって以降、折に触れてアドバイスをもらっており、「社会的な仕組みづくりや運営のノウハウを実学から享受できました」と川原さんは言う。
情報過多の時代に、あえてのラジオが見直されるとき
川原さんの活動は、これまで広島FM、ふくやまFMの目に留まり、番組作りやゲスト出演で実績を残している。「難しいことは考えずに、とにかく楽しみながらワクワクを突き詰めることを意識しています」と本人は言うが簡単ではないだろう。「叡啓大学の自由な校風は大きな追い風でした。大学での学び、経験から、やりたいと思ったことはすぐに企画書を書いて行動に移していくことができ、その行動力を評価してもらえることが多くあります。つまずくことはたくさんありましたが、その状況と向き合う姿勢と判断力を培うことができています。」という。続けて、「僕たち若い世代にどんどんチャレンジしてもらって、ふさぎ込んだ日本の体質を変えてもらいたい、ありがたいことにそう言われる機会が増えたので、これからも躍進していきたいです」と川原さん。「シャレオでラジオ」でもまだまだやりたい企画があり、そのフィールドは一歩ずつ着実に広がっている。


▼企業紹介
●株式会社横山セイミツ
所在地/広島市安佐南区長束5-8-54
創業150年以上の歴史を持ち、仕組みをデザインしたプロダクトやサービスのプロデュース、既存リソースを超えたコミュニティの創出など、あらゆるアイデアをカタチにしながら社会における“ものづくり”を支える。