広島県公立大学法人 叡啓大学

高校生不登校ジャーナリストによる社会課題発見ディストリビューションシステム

不登校といわれる児童の数は、近年急増している。背景には様々な個人的・社会的な理由が関連すると指摘されるなかで、理解と支援はどれほど進んでいるだろう。大切なのは、いわゆる不登校と呼ばれる児童たちが日々どんな思いで生きているか、それを受けとめてくれる場所はあるか、きちんと向き合うこともひとつといえる。

中学生の頃に芽生えた「社会を変えたい」という思い

成毛さんがプロジェクトに取り組む理由には、はっきりとしたビジョンがある。それは「子どもたちが“自分は生きていていい”と感じられる社会をつくること」。自身も小学3年生から不登校となり、周囲から問題児と決めつけられ自己否定する日々を経験した。しかし、中学校である先生と出会って考え方が変わった。「不登校というフィルターを通してではなく一人の人間として接してもらえたとき、それまで私が理不尽に否定されたことは何だったのか、選択肢が狭められていたのはなぜだったのか疑問となり、社会を変えたいと考え始めました」と成毛さん。高校生になると自治体やNPO団体に招かれて経験を元にした講演を行ったり、教師と中高生の対話の場づくり、不登校の保護者を対象とした講演会の企画など積極的に取り組んでいくことになる。

講演会の様子

不登校の子たちの観察力と、考え続ける力に着目

「大学に入って始めたプロジェクトは、不登校の児童の課題発見力を活かして、課題発見に特化した記事を書いてもらい活躍の場をつくることでした。不登校の子たちが集まるとよく、学校ってどうなんだろう、社会ってどうなんだろうという議論が生まれます。周りの多くが気に留めないようなことに目を向け、課題として考え続けられる力がある。そんな子たちに記事を書いてもらいたかったんです」と成毛さん。記者として向き合い、言葉にして表現することで、自由に考えや思いを発信できる場を提供するというわけだ。テーマは大きく①時世に関すること②教育分野に関することに分け、現在、元不登校で通信制高校に通う2年次の学生がこのプロジェクトに参加し、記事制作に取り組んでいる。

課題解決の対象によってアクションは柔軟に

プロジェクトにはコースを設け、進行中の高校2年生の場合、「課題発見記事コース:3か月~」のスケジュールで記事完成を予定している。完成した記事は各種関連団体のサイトでニュースレターとして掲載したり、新たにオルタナティブメディアを作成して公開するまでが一連のプランだ。

課題発見記事コースのイメージ図

今はまだプロトタイプの段階にあるかたわら、進めながら違う方向性も見えてきた。というのも、当初のプロジェクトの目的は、不登校の子どもたちの課題発見力に着目した問題定義や活躍の場づくりであったが、実際はもっと身近な悩みの解決を求めている当事者たちがいたからだ。「例えば、お母さんが自分が不登校であることで泣かないでほしいとか、たった一人でもいいから応援者が欲しいとか。不登校の子供たちはそういった目の前にある悩みを解決したいと思っています。それを解決するためにどうするべきか考えることで新たなアイデアを生み出すことができます」と成毛さん。「課題発見力だけでなく不登校の子たちには視点の面白さもあって、それを大喜利で披露したり映画の感想会をしたり、小さなイベントを積み重ねて人とつながり、価値の変化を起こすというシステム構築も今は検討しています」。

大学での学びで役に立たなかったものはない

大学での学びはどう生かされているだろう。「サービスと顧客ニーズのズレを見つけてビジネスアイデアを考える“バリュープロポジションキャンバス”、発散と収束を繰り返し問題解決へと導く“ダブルダイヤモンド”など、プロジェクトを進めるにあたり使った課題特定のフレームワークはすべて大学での授業「課題解決演習(PBL)」で学びました。そもそも私が叡啓大学を選んだ理由は、高校生の頃からイベントを企画・開催するなかで、単発的に気持ちの変化は起こせても継続的な変化には至らないという課題とぶつかり、それを実践的、学術的に学びたいと思ったからです」と成毛さん。講義を通して問題や課題を掘り下げる理論や体系を学び、自身の考えを俯瞰できるようになった。だからこそ生まれた可能性の広がりを良い効果としてプロジェクトに発散し、いま収束の段階にきていると自身で評価している。

大学での活動の様子

人と機会に恵まれ、信じてもらえる実感を得た

2024年、成毛さんのプロジェクトは、第31回ひろしまベンチャー助成金で「HIROSHIMA Next Venture Excellence Award」を受賞。学生枠29件の中からの選出で、30万円の助成金を獲得した。さらに、成毛さんの活動に共感してくれた人たちとつながり、新たなプロジェクトも始動している。それは全国にある不登校の子たちの居場所を可視化するサイト「居場所ポータル(仮名)」の構築で、成毛さんはプロジェクトリーダーに抜擢された。「様々な機会に恵まれたことは、プロジェクトをはじめとしたこれまでの活動の成果といえます。やっていることは多様かもしれませんがビジョンは変わりません。これからも集めて届ける方法を模索し、社会にアクションを起こし続けていきたいと思っています」。

「HIROSHIMA Next Venture Excellence Award」を受賞の様子

(2025年3月)

 

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